第25話(最終回) 境界線上にあるもの 芦野信司

 三月十五日の日曜日、午前十時過ぎに木田家に電話が入った。玄関傍で受話器を取ったのは順子だった。  美由紀は二階の自室から階段を下りてくるところだった。順子が電話の相手に妙にはっきりした声で「よろしくお願いします」と答えているのが聞こえた。美由紀の意識のなかでは二月二十八日の高校受験発表があってからの生活は、宝塚受験に完全に切り替えている。階段を下りること一つ取っても、体の芯を意識しておなかをやや持ち上げるように腹筋を使い、顎を引いて下りてきたのだった。四月からは音楽スクールに換えてバレエスクールに通うと計画していたとおり、すでに入学手続きを済ませていた。  電話に出た順子の言葉遣いは妙にしゃっちょこばっているが、調子は弾んでいる。美由紀は、脚を開いてリビングのソファーの背もたれに両手をかけ、上半身を倒すストレッチをしながら順子の声に耳をすませた。  受話器を置く音がして、順子がリビングに入ってきた。 「聞こえた?」  美由紀は上半身を倒したまま背中を反らしていたが、順子に向けた顔だけを横に振った。 「警察からよ。……… 犯人が捕まったって」  美由紀は、一呼吸して体を起こし、両腕を回しながら順子の方を向いた。 「やっとというか。意外というか。……… 何も連絡が無かったからもう探していないのかと思っていた。半分以上無理かなと思っていたのに、よく見つかったものね。……… すごいね、警察」 「昨日の夜、菊名駅で痴漢の現行犯で捕まった男が、あの防犯ビデオの改札をすり抜けた男と似ていたん…

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