第22話  約束   芦野信司

                                美怜は秋江が語る去年十月に起きた痴漢事件の真の姿に聞き入った。電車に美由紀の父の邦夫が乗っていたことも初めて明かされたことだった。電車の中で痴漢に脚を触られたこと。秋江がホームで転んだ時、邦夫に声をかけられたこと。邦夫の鞄から端切れを貼り合わせた猫の絵が落ちたこと。その後学校でスカートが切られていることが分かり、邦夫が怪しいと思ったこと。  秋江が美由紀にそのことを話して美由紀が邦夫に問いつめたということを聞いたとき、美怜は両目を瞑って額に手をやった。 「それで?」   邦夫が誤解だと言っていること。下校の電車で偶然あったときも濡れ衣だと言われたことを秋江は話した。しかし、カラオケ店までついていったことまでは話さなかった。ただそのとき以来、美由紀も母の順子も邦夫に対する疑いを持っているようだとは伝えた。 「まだ、何かあるわね」  美怜の声は遠雷のように響いた。  秋江が珍しく言いよどんで、しまったという顔をしている。 「何よ。秋江らしくもない」  秋江はぐずぐずした態度で、真斗から口止めされていたんだけどと断りながら、真斗と一緒に邦夫に面会したことを告白した。 「真斗まで絡んでいるのね」美玲の声が冷ややかだ。  秋江は、真斗が邦夫に会ったのは、趣味の端切れ制作が共通であるうえ、邦夫がネットの斯界では神のごとき存在だからということが分かったからだと断った。でも、目的はそれだけではなく、邦夫が秋江のスカートを…

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