第17話  ドライヤー        黒崎つぐみ

「木田さんのお宅ですか」 「はい、そうですが……」 「こちらは港北警察署のものです。木田美由紀さんのお母様でしょうか」 「美由紀に何かあったのですか」 「電車内で痴漢の被害に遭われました。大倉駅構内でお預かりしています。迎えに来られますか」 淡々と電話の声は事実だけを告げる。 順子は携帯電話と財布を手に持ち、コートも羽織らずに家を飛び出していた。1月街は12月とは違う冷たい風が吹いていた。駅までの道を速足で辿る。道すがら邦夫に携帯から電話した。コールが8回虚しくなったが邦夫は出ない。 震える手でLINEに文字を打ち込む。 (美由紀、痴漢された。大倉駅に早く来て) 信号待ちをしていたらピコンと携帯が鳴った。 (すぐ会社を出る) LINEの青い画面がやけに暗く感じる。 大倉駅までがいつもより遠い。 改札口で駅員に 「警察から電話をもらった木田です」 それだけ言うと 「こちらへどうぞ」 と、すぐ横の事務室へ案内してくれた。 ドアの向こうに、警察署員や駅員に埋もれるようにして美由紀が座っている。 順子の顔を見つけると、美由紀の目に涙があふれてきた。駅員に椅子をすすめられると順子は美由紀の手を取り撫でた。順子の冷たい手に美由紀の熱が伝わって来る。美由紀の頭を抱え込むようにして抱き寄せた。順子はその頭から美由紀が感じた不安や恐怖を自分の胸に取り込むことが出来たらどんなにいいだろう、と思った。 「署の方で調書を書いてもらっていいですか」 二人が落ち着くまで数分待って…

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