第16話  鉄橋     芦野信司

                              学校が始まり、八日から始まった音楽スクールも受験に向けての追い込みの鞭が入ったかのような厳しい空気になった。美由紀のこの一年の成長については先生も認めてくれたが、今の美由紀には一時の気迫が感じられない。もっともっとがむしゃらでないと、聞く人を感動させられない。音楽を甘く見ていないか。……… それが、先生の指摘だった。  美由紀は、ただ俯いて聞くしかなかった。自分は油断していた。先生の言葉は美由紀の慢心を一突きした。 「宝塚に入ったらもっと厳しいからね。もう中学生じゃあないんだから、しっかりしなさい」  美由紀は、心の中で「三月までは中学生なんだけどなあ」とつぶやいていた。  レッスンが終わり日吉駅に向かう。この間までは忘年会で賑わっていたのに、今は新年会で賑わっている。飲食店街は時間が遅くなればなるほど通りたくない場所になる。遠回りしてカラオケ店の前を行く手もあるが、邦夫と出くわさないとも限らないので、美由紀は、我慢して飲食店街を通り抜けることにした。それにしても、なぜ大人はあんなにだらしなく酔っぱらうのだろうと思う。大きい声を出したり、ぺっぺと唾を吐いたり。……… 美由紀は顔をしかめながら、トートバッグにつけた防犯ブザーを握りしめた。もし、酔っぱらいに絡まれたらこれをならしてやるのだ。相手が怯んだ隙に逃げればいい。元陸上部の脚で、颯っと。……… もっとも、美由紀が地味な学生用コートに身を包み足早に通り過ぎるせいか、防犯ベル…

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