第13話  羽化     芦野信司

 LINEの電話は一方的に秋江から切れてしまった。有無を言わせぬ勢いで、痴漢問題は自分が何とかするという。何とかすると言っても、どうするつもりなのだろう。美由紀は携帯を自分の机の上に置いた。そして「アッキーは、変わったなあ」とひとりごちた。  秋江はどちらかというとぼんやりした子だった。何でもママの言うことをきいていた。自分の意見を言わない訳ではなかったが、最後はママの意見に従うような子だった。私立中学進学を決めたのは美怜だったし、この先の人生もママの敷いたレールを進むのかなと思っていたのに。痴漢問題に対し「具体的に何とかしよう」「あとは私が勝手に考えてみる」などと言うようになるとは。  この頃の秋江には蛹から抜け出そうとする蝶のような変化を感じる。まだ蝶になりきれていない、羽化の最中のような危なっかしさを。……… いつから変わったのだろう。  振り袖は衣紋掛けに下げてある。美由紀の勉強部屋にはそぐわない豪華な色彩が部屋の一角を占領している。順子が成人式の時作ったものだという。その写真をかつて見たことがある。友人たちと笑って写っていた順子は、少しぽっちゃりしている上に羽根のショールが派手過ぎて時代がかって見えたが、みずみずしい肌のはりが輝いていた。  美怜から「きれいになったわー」と言われたとき、ふっと浮かんだのが順子の成人式の写真だった。自分もあんな風になるのかなと。地味な服装を好んで着ているのが自分らしさと思っていたが、派手な振り袖を着たら色っぽくなるかもしれないと夢想した…

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