第10話 女系       芦野信司(挿絵も)

十二月二十九日は燃やすゴミの日で、ゴミ出しの最終日であった。会社に行く出がけに家近くのゴミの集積所にゴミ袋を運ぶのが邦夫の日課。年末の休暇に入ってもそれは同じで、邦夫は順子が用意した袋を運んで行った。朝からよく晴れていて、年末年始は好天が続くという予報だった。  近所の家々もそこはかとなく忙しない。まだ八時だというのに窓を全開にして障子の張り替えをしている家がある。自宅前の道を竹箒を使っている人がいる。どの家も年用意で忙しいようだ。邦夫も、順子が朝食の支度をしている間、外回りと玄関の掃き掃除を終えた。  美由紀が二階から下りてきて、朝食となった。二十三日の衝突のしこりはまだあったが、少しずつではあるが家庭内の雰囲気が改善しつつあった。順子の顔色がここ数日明るいのだ。新しいパッチワークにいそしんでいるせいかもしれなかった。 「お父さんは今日休んでいてちょうだい。新年の買い出しで時間がかかるんで、車借りるわよ。お昼は、冷蔵庫にいろいろ入っているからレンジでチンしてもらってもいいし、面倒だったら外食してね」 「買い出し、私も行く」と美由紀。 「……… そう、時間かかるわよ。いいの?」 「大丈夫。勉強はほぼ完璧。ソルフェージュを地道にやって、これからは体調管理が一番大事かな」 「宝塚も受けるんだろう?そっちは大丈夫なのか?」  邦夫が口を挟んだ。 「……… 第一次試験が川崎であるんで、それだけは受けさせてください。面接試験で、すごく倍率が高い………」  美由紀の声…

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