第9話 絶対に欲しいもの かがわとわ
「ねえ、うちに来ない? ピノンでケーキ買ってさ、一緒に食べない?」
そう言ったユッコは、言ったそばから口を押えて、
「あっ、やばい。だめだ。ごめん」
と、否定してきた。
「何それ。口はもうピノンのケーキ、心はユッコのうちになっちゃってるんだけど」
秋江は口を尖らせた。今日のユッコは、何かおかしい。
「なんでだめなのよ?」
ユッコを、もう一度下から覗き込んでちょっと睨むと、
「お母さんにね、友だちと会うって出て来たの」
「友だちじゃん」
「アッキーだとは言わないでおこうと思って……あ~そうだった……ごめん」
「おばさんが、私と会うのは困るから? 夫がチカンしたかも知れない子が来たら……」
ユッコは、また何か考えている様子だったが、
「お母さんも可哀想だし、アッキーだって」
「おばさん、家にいるもんね」
「私が出る時はいたから。でも買い物とかに行っちゃったかも知れないし……そこまでわかんないけど、いる確率は多いから」
秋江は、邪慳に扱われた被害者のような気持ちになって、イラッとした。
「じゃあ、もう帰る」
いきなり駆け出すと、狙い通りにユッコが追ってきた。
「ごめん! 待って!」
ユッコの手が、秋江の腕を捉えた。
振り向きざま、秋江はユッコに、
「さっきから、ごめんて何回言った? ねえ、どうして今日は私と会う気になったの?」
「──それは。やっぱり会いたいなと思って」
ユッコの手が、おずおずと離れるのを残念に思いながら、
…