第5話   クリスマスイブ  黒崎つぐみ

 昨夜、美由紀は泣きじゃくりながら邦夫に抗議した。その直情に刺激されたのか、気が付くと順子は夫の背中に殴りかかっていた。「お父さん、チカン?」とキツイ目で美由紀が詰め寄ってからもうすぐ2か月になろうとしている。あの日から順子は握った拳を懐へしまい、平穏な日常に戻ろうと努めていた。美由紀の受験が終わるまでは、と拳を固く握ったまま月日が過ぎていた。順子は2か月前のあの日から邦夫と交わす会話が減っている。口を開くと夫を責めてしまいそうになる。恨み言は言うまいと決めていたが、昨夜は堰を切ったように拳に力を込めていた。行動に出てしまっても邦夫の態度は変わらない。美由紀が泣きじゃくって自室に閉じこもった後、邦夫も寝室へ上がってしまった。体をぶつけた分だけ、以前より他人になってしまった。  そんな時、手を動かしていると少しは気が紛れた。テーブルに広げていたパッチワークの布をお菓子の缶に戻しながらぼんやりと眺める。 美由紀がまだ小さいころ、「お母さん、バッグ作って!」「わたしだけのお弁当箱入れ作って」「アッキーとおそろいの、うわばき入れがいい!」  順子は言われるままにパッチワークでいろいろなものを作った。それはまるで空いた時間を埋めるジグソーパズルのように、順子の隙間も埋めてくれた。美由紀が小学校を卒業して、しばらくはその趣味も押入れの中にしまい込んでいたが、この冬、また手芸道具を引きずり出したのだった。美由紀は2階で受験勉強をしている。夫は最近帰りが遅い。夫の帰りを待つ間、以前はこんなに胸がざわざわ…

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